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【第2回】企業内のリーダー・指導員インタビュー「NTTクラルティ株式会社 塩山ファクトリー 髙橋久美子さん」

第2回 リーダ-・指導員インタビュー|障害者雇用を推進される企業のご担当者|髙橋久美子さん|「ありがとう!」が飛び交う職場で、一緒に成長をしていきたい。

社員の成長に接した時の感動が仕事のモチベーションになっていると語る髙橋さん。一人一人に合った指導を心がけ、一緒に成長しよう、一緒に頑張っていこう!という思いがあふれていました。障がいのある息子さんの就職活動についても伺いました。

言葉で伝わらなかった時は見本を見せる。その時のポイントは?

現在の業務について、教えて下さい
塩山ファクトリーは特例子会社NTTクラルティ株式会社の事業所の一つです。現在、52人の知的障がいのある社員が働いていて、手すき紙とその紙を使った製品作りを行っています。私は、検品作業チームで14人の社員を担当しています。カレンダーやポストカード、ポチ袋などを製品化する際の手順や、わかりやすい作業の仕方などを社員に伝えながら、一緒に働いています。

現職に就かれて、何年目ですか?
9年目になります。

現職に就かれた、きっかけは何ですか?
ちょうど、自分の子どもが自閉症という診断を受け、主治医からは「どのような障がい特性があるかは十人十色です」とお話がありました。それで、いろいろな特性がある人のことを知りたい、障がいのある人と一緒に働いてみたいと思っていたところ、たまたま、この会社の求人があったので応募しました。

現職に就かれた当初、戸惑ったり、困ったりしたのはどのようなことですか
一番困ったのは、指示の伝え方です。こちらは伝わっていると思っていたのに、社員には全く伝わっていないということがありました。初めは戸惑いましたが、知的障がいの社員は言葉では理解しづらく、目から覚えるほうが早い。また、一人一人の理解力や理解の仕方が違うので、それぞれの人への関わり方が違うのだと気づきました。

伝え方に戸惑われたとのことですが、その問題を解決するために、どのような工夫をされましたか?
言葉では伝えづらいとわかってからは、「一緒にやる」ことが大事だと思いました。見本を見せるということです。
その際に、社員の前に立って向き合って指導すると、鏡のように左右が反対になってしまうので、横に立って、同じ向きで教えるということを学びました。例えば、ハサミを使って作業する時に、向かい合わせの位置で、右端を切る見本をすると、社員は左端を切ってしまいます。朝と昼のラジオ体操をする時にも、私自身は体操を左右逆に覚えてから、前に出て教えるようにしました。

障がいのある社員の方と一緒に働いて、一番、印象的だったエピソードを教えて下さい
古い話になりますが(笑)。事業所開設前に2週間の訓練があったのですが、短い期間にも関わらず、それぞれの人がすごい成長をしました。訓練初めの時には、言葉を発することや作業をすることが難しかった人たちが、訓練が終了した時には、いろんなことができるようになって、感謝の言葉も自分から言えるようになっていました。「ありがとうございます。」と言われたときは、涙がでる思いでした。
それまでの環境の中で、いろんな場面で「あなたは、やらなくていいよ。」と言われてきたのかもしれません。でも、訓練を経て、あれもできる、これもできるようになった!という喜びを一緒に味わうことができました。その時の感動があるから今の私があります(笑)。
今でも、年末に行われる「振り返り会」や社員研修などの時に、それぞれの社員の成長の様子がみられたり、「リーダーに褒められてうれしかった。」と言ってもらったりすることが、私にとって一番うれしいことですね。

みんな違うということは大変だけど発見がいっぱい

一緒に仕事をしていて、驚いたことはありますか?
毎日、驚きの連続です(笑)。昨日までできなかったことが、突然できるようになったり、反対に、昨日まではできていたのに今日から突然できなくなったりと、小さな驚きは毎日あります。ビックリさせられることで、楽しくやっている面もあるのですが、毎日、いろいろなことの繰り返しだなと思っています。

昨日までできたことが、急にできなくなるということがあるのですね
もし、作業を忘れてしまっても、周りの人がやっていることをみたらわかるだろうと、私は思ってしまうことがあったのですね。でも、隣の人のやっていることを見て思い出したり、覚えたりということはあまりないですね。できなくなった時には、やはり一対一で教えることが必要になります。

いきなりできなくなる、という場合にはどんなサポートをするのですか?
最初から説明をすることです。「あれ?これ、今までできていたよね」というのではなく、「初めから説明するよ」と伝えながら、「どこがわからなかった?」と聴きます。本人もどこで躓いているのか、わかっていないのです。なので、一瞬手が止まるところがどこなのか、どこで引っかかっているのかを、一緒に見つける観察力がいりますね。
休みが続くと、作業が滞ることもありますが、少しヒントを言うだけで、みんな同じリズムに戻ってきてくれることが多くなりました。こちらが焦らないこと、見守ることが大事だと思っています。

職場で作業中の髙橋さん

職場で作業中の髙橋さん

大勢の社員がいらっしゃいますが、それぞれの社員の特性について、髙橋さんはどのように理解を深めていったのでしょうか?
私は、社員の障がい特性を頭で理解して接し方を考えるのではなく、一緒に仕事をする中で、その人を理解し、一人一人に合った方法をみつけていくように心がけています。
それは、子育ての中で感じてきたことでもあります。笑い話のようですが、「扇風機切ってきて」と言ったときに、息子はハサミを持っていってコンセントを切りました。バチンって(笑)。怒ることはできませんよね。間違っていたのは、息子ではなく、私の伝え方だったのです。正しくは、「扇風機のスイッチを切ってきて」と言わなければいけなかったのです。
このような子育て体験もあって、その人が分かりやすい言い方、どうやったら伝わるかを試しながら指導してきました。みんな違うということは、大変ですが、発見がいっぱいあります(笑)

障がいのある子どもの就職活動、親子とも「一歩踏み出す勇気を」

お話に出てきた息子さんが、今年、学校を卒業して、障がい者雇用枠で就職されたと伺いました。息子さんの就労に向けて、指導員としての体験は家庭教育に影響はありましたか?
親は子どもの自立を目指して育てているのですが、障がい者就労に関する情報が不足している気がします。どんな仕事があるか、どんな企業があるか、賃金や労働条件はどうなっているのだろうか、という情報が少なくて、働き方をイメージすることができないケースが多いように思います。
幸い、私はこの職を通して知ったことがいろいろあり、息子の就職にあたっては、企業を探し見学に行きました。その数は同級生に比べたら多かったと思います。塩山ファクトリーで社員に指導したことや、社会人としての心構えなどは、家庭でも折に触れ、息子に口うるさいほど言ってきました。息子は、学生だったときには軽く流していたようでしたが、実際に就職の面接の時には、思い出していたようです(笑)。障がいのある学生たちが、もっと、社会のルールを学ぶ機会があるといいなと思います。

仕事をする、お金を稼ぐ、毎日決まった時間に会社に行くということに関して、あきらめがちな親御さんもいます。「うちの子は、障がいがあるから、就職できなくてもしょうがない。」というように。息子の友だちのお母さんから、「通勤時間が心配。」「いじめられるのではないかが心配。」という声が聞こえてきたときは、「『一歩踏み出す勇気』が大事なことですよ。」と伝えました。親は先に老いますから、いつまでも子どもを守ってやることはできません。自分から情報を求めて、子どもに合った会社を探していかないと就職につながりません。親子そろって、どうしようと迷いながら日々を過ごすのはもったいないですよね。

塩山ファクトリーの社員は遠くからも通って来ています。スーツを着て、駅を降りてくる姿は頼もしく、周りの人から一社会人として見られているよねと社員に話すと、みんな背筋が伸びてきます(笑)。

「みんなで、一緒に成長していきましょう」という気持ちで

社員の成長のために、髙橋さんが心がけている指導はどのようなことですか
社員が、常にモチベーションを保てるように応援していくことです。ずっとがんばり続けることは難しいですが、小さな目標を設定して、目標が達成できるように応援します。できたことはその都度、褒めます。そして、心をこめて「ありがとう」を言うことも大事にしています。そうした日々の小さな積み重ねがあって、褒められたり、ありがとうと言われたりしたことを、みんながうれしいと思ってくれるようになります。それが社員のモチベーションに繋がっているように感じています。

年末の「振り返り会」などでも、リーダーに褒められたことが一番嬉しかったと発表する社員の方が大勢いますね。ここでは「ありがとう」が職場のあちこちに響いているように感じます。
しつこいくらいに、社員に言っています(笑)。社員はこれまで、「ありがとう」をあまり言われてこなかったんだという印象があります。「ありがとう」っていうと、とっても喜んでくれます。もちろん、私も「リーダーに褒められてうれしかった」と言ってもらうと、うれしくなります。お互いに「ありがとう」がいっぱい飛び交う職場にしたいです。

支援機関とは、どのような関係を望まれますか?
会社で仕事を続けていると様々なことが起きます。体調不良、体調に起因した仕事上の問題、人間関係のトラブルなどなど。安定して働いていくためには、会社と家庭と本人との連携が大切になりますが、本人は自分の仕事や会社でのことを家族や関係者に伝えることが難しいようです。会社に伝えるべきことも、報告されない場合があります。塩山ファクトリーでは、支援機関の皆さんと3ヶ月に1回のペースで、会議を行っています。支援者の皆さんには家庭や生活面のことを確認していただき、会社と情報共有をしています。こうした取り組みが、就労の安定に繋がっていると思います。

親の立場からの希望になってしまうのですが、私は息子の会社の様子を知りたいです。何ヶ月かに一度でいいので、企業と家庭の情報の橋渡しをしていただけると安心します。親も支援機関を頼りにしています。

最後に、これから初めて障がい者雇用の現場に就かれる方に、アドバイスをいただけますか?
頭でっかちにならないことが大事ですね。始めから身構えて、「障がい者はこうなのだろう」、「きっとこうなるに違いない」と考え過ぎない方がいいと思います。その人その人、皆さん違うので、頭で考えて、「こうしなきゃならない」って思っていると、まるで違ってびっくりすることになります。少しずつでいいので、本人とコミュニケーションをとりながら、その人に合わせていくことが大事なのだろうと思います。構えていたらできません。
「一緒に成長していきませんか?」というくらいの気持ちがいいのではないでしょうか。

私は9年目ですが、一期生の社員とは同期入社です。一緒に成長しよう、一緒に頑張っていこうということが何より大事なことだと思っています。

  • 取材日 2019年7月24日
  • 取材者 特定非営利活動法人WEL’S 筒井 久美子

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